韓国裏話(ヤガミトール編)
BUCK−TICKがくる前、あちこちから集めた情報によってヤガミさんはBUCK−TICKメンバー達の中唯一の既婚男性、BUCK−TICKが所属している事務所の社長、ユータサンのお兄さん・・・等々の情報を知っていた。
けれども空港に着いてメンバー達が空港をゆっくりと歩いてくるとたんに私は悔やんだ・・・そんな理論的なことも良いが、それよりはヤガミさんの顔でも覚えておいたらよかったのにと思いながら。
なぜならば、私はいつもこれはヤガミさんの感じだけ覚えておいて顔をろくに見たことがなかったから
長い髪を後ろにぎゅっと縛ってふつうの黒いジャンパーを着ているヤガミさんの姿があまりに不慣れに感じられたからだ。
けれども、ヤガミさんは人達にいつも親しみ深い感じをくれるという魅力がある人だった。
別にメンバー達と近く対面する機会はなかった空港、バス、ホテルでのスケジュールは除いて一番の公式日程だった夕食の時やはり私の緊張を一番先に解いてくれたのはヤガミさんだった。
実際のところ私はメンバー達の中でヤガミさんの話しが一番よく聞き取れなかった。話しがいちばん早かったり(実は他のメンバー達が話しが遅いのであるが),中年男性特有の口振りと抑揚はまだ日本語に不慣れな私にとっても疎かったから。
けれども、敢えて話しを聞き取らなくてもヤガミさんの大まかなことは確認することができた。
夕食の席でファンがプレゼントした酒肴を備えたプレゼントを封切りしたが、プレゼントの封切りはヤガミさんに任せられた。
どころが箱を封じたテープを切る刀がなくて私が従業員に刀を持ってきてと頼む間、ヤガミさんは側にあった肉を切るはさみでテープを切ってしてしまった。
それから種類別で置いてあったこのお酒、あのお酒を見物した中で・・・ペクセジュ(酒の名前?)をでんと選んでくれた。
ちょうどこの時一緒にいたフリーランス通訳がペクセジュに対して知識があって
ペクセジュに対して説明をしてくれたが(私もこの時ペクセジュについて初めて知った)その話を聞いたヤガミさんはまるでCFを選びそうな姿でペクセジュを上げるポーズを取ってくれた。
この時はお酒話であり年の話等々が話題でたくさん話されたが,ヤガミさんがメンバーの中で一番年が多いからであるのか、ヤガミさんは自分の多い年をネタにしてかなり多くユーモアを使いこなしたりした。
事実、ヤガミさん・・・写真をたくさん見られなかったが、そのどの写真でも笑う顔つきが一つも見られなかったので、どうしても「社長」という職責のため重さが感じられるとか重厚なスタイルが好きなのかと思ったが全然そうではなかった。
むしろ、もっとも気楽に見えて十分にゆとりを持っているようだった。
自分が年が多いから体に良いペクセジュを先ず飲んでみると言って、ペクセジュを五十正月の酒で作って飲んで、「これ良いよ」と言っていってほかのメンバー達に勧めたのもヤガミさん。
それから話の合間に十分に見せてくれた人の良い笑顔は私を本当に気楽にしてくれた。
大変に雨がたくさんふったコンサート。
ヤガミさんの衣装は真っ赤な正装だった。それからいつも見ていた見慣れた葦原頭。
インタビューでもやはりゆったりした笑顔を見せながら熱心に答えてくれた。
四十を控えた中年、その大人らしい特有の安らぎはふだんでもインタビューでもコンサートホールでもいつも発揮された。
事実コンサートホールではヤガミさんの姿をバスから舞台に上下するそのちょっと間ぐらいしか見られなかったが、その渦中にもヤガミさんは私を本当に気楽にしてくれた。別にこれはヤガミさんが私に何をしてくれたわけではないが、その人の良いヤガミさん見ると何か安心になって心配が消えるほど私はヤガミさんに心的にかなり頼っていたようだ。
メンバー達の楽な姿がたくさん見られた後の打ち上げでは、ヤガミさんはやはり韓国での3日間の中もっとも気楽な姿を見せた。
わが社の社長と一緒に「社長どうしに乾杯!」と叫んだりしたし、自身達のために骨折ってくれたスタッフを一々几帳面に気遣ってくれた。いつも感じたのであるが、ヤガミさんはいつもメンバーよりはスタッフと一緒にいる方だった。それくらい素朴な性格であるのではないだろうか。
酒席で何杯もほろ酔いに飲んで気持ちが良くなったヤガミさんは人々の話題がお酒に酔って寝付いているユータサンに移って行くと側にあったこれはヤガミさんはユータサンの頭をかき回しながら、
「俺の弟可愛いだろう?」といい微笑ましい微笑を見せたが、その姿がどれほどすばらしかったか。
それからもう一度人々の話題は樋口兄弟に帰ったが、その内容はヤガミさんとユータサンがとても似ているいうことだった。
この時、ユータサンはただ淡々とした顔つきだったのに反してヤガミさんは「ありがとう」を連発して人達に元気に挨拶したりした。
そんなヤガミさんの姿は巨匠バンドBUCK−TICKのドラマー・ヤガミトールではなく人間ヤガミトールの青くてみずみずしくて快い人の匂いが嗅けた。
BUCK−TICKメンバー達が短くて忙しい日程を終えて日本に帰った日。
ホテルから空港に向かうバスの内でヤガミさんとアツシさんは全然眠らなかった。
アツシさんは窓の外の景色を熱心に見つめたし、ヤガミさんはスタッフと話を続けていたために眠らなかった。
元来、メンバー達にはバスの中に「自分たちの指定席」
というものが決まっている。
その指定席によると、ヤガミさんは後ろから三つめの座席に座っていなければならないのに、この時は一番前に座っているスタッフの側の座席に座って一緒にドラム専門雑誌を読んで様々な話をして、ジョークを続けざまに連発していた。
空港に着いてバスはマネジャー達が出国手続きを終えるまでかなり長い間待っていたが、この時ファンは開かれた扉にヤガミさんの姿を発見してヤガミさんの愛称である「アニィ」と叫んだ。
私が直接見る事は出来なかったが、たぶんこれにはヤガミさんはファンの声に笑いながら答えてくれたのではないだろうか。
ヤガミトール。卒直に言わば、ほんとうに期待以上の人だった。
あまりにも儀式張らなくて周囲の人達を気楽にすることでナイガプをたっぷり成し遂げる人だ。
普段は「BUCK−TICK」というバンドのカリスマは全然感じられない。限りなく心立ての良いかなり年配の友達のような気がした。
BUCK−TICKのドラマー、事務所の社長という位置にありながらも全然高慢だったり自分の位置を人に認識させないヤガミさんは私に本当に柔らかい印象で残っている。